能『杜若(かきつばた)恋之舞』

■あらすじ

恋多き貴公子・在原業平(ありわらのなりひら)がモデルともいわれる『伊勢物語』。「杜若」は、平安中期頃に成立したその歌物語の、第9段を題材とした物語です。 季節は初夏。諸国一見の僧(ワキ)が三河国八橋を通りかかると、一面に杜若の花が咲いています。花に見惚れていると、一人の女(シテ)が現れ、この杜若は『伊勢物語』で業平が歌に詠んだ花だと教えます。女は僧に一夜の宿を貸し、業平と二条の后の形見の品を見せます。この女性こそ、業平の歌に詠まれた杜若の精なのです。杜若の精は、『伊勢物語』の故事を語りながら舞い、業平が神仏の化身なのだと告げます。やがて朝になり、草木成仏の仏縁を得た杜若の精は、救いを得て消えてゆくのでした。 能の特殊演出である「小書」に「恋之舞」がつくと、シテは序の舞の途中で橋掛りのほうへ行き、右の袖を頭に被いて、沢辺を見込む型が入ります。水に映った業平の面影を懐かしむ演出で、笛の音階も高くテンポも速く、いやがうえにも情感を高めます。